【奨励賞】西田里奈さん「みんな望まれて生まれてきた」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

【奨励賞】西田里奈さん「みんな望まれて生まれてきた」

『ママは、ゆきちゃんと会うために生まれてきたんだよ。』
 

あの日生まれた子は、今月でもう2歳になる。かけがえのない私の宝物。可愛くて可愛くて、苦しくなるほど愛おしくてたまらない子。世界一可愛い私のゆきちゃん。

かつて妊娠が発覚した時、喜び勇んで産科を受診すると「切迫流産」だと診断された。一瞬で奈落の底に落とされたような心境に陥ったが、それは「流産しかけている状態」であり、流産ではなかった。赤ちゃんは生きている。この子の生きる力を信じなくてはいけない。
そう自らを鼓舞するまでには時間がかかり、しばらくは何をしていても涙が止まらない。でも嗚咽が出るほど泣くとお腹が張ってくる。子宮が収縮してしまう。赤ちゃんを想って泣いているけど、泣くことは赤ちゃんのためにならない。
泣くのをやめて、前を向かなければならないと実感した。
夫ともに勤務先へ挨拶へ行き、病休中は医師から指示された安静度を守り、寝て過ごした。お腹が張らないように、食事とシャワーとトイレのみに起きる。孤独だった。ひたすらに。
「切迫流産のゴールはなんでしょうか」
と医師に尋ねると、
「ゴールはなく、状態を観察しながら妊娠週数を重ねて正期産へ持っていくこと」と答えられた。
ゴールがない?ここまで来たら万事オッケー!なのはまさに出産直前?
不安は消えなかったが、赤ちゃんは順調にお腹の中で育ってくれた。
夏の妊娠だったためか、夜中に脱水症状のように熱く、頭痛と気持ち悪さを感じてのたうち回った日も、こむら返りが起きて痛みのあまり声も発せなかったのに夫が飛び起きてくれた日も、何をするのもけだるく寝てばかりいて罪悪感にとらわれた日も、体調が良く、夫と台所に立ってスイカを頬張った日もあった。

妊娠中、赤ちゃんの将来を考える時間がたくさんたくさんあった。健康なら、いい。幸福でいてくれたらいい。私たちと仲良くしてくれたらなおいい。一生懸命お金を稼いで、何でも好きな道に進めるようにサポートしたい。人に傷つけられないように守りたい。もちろん、よその大事なお子さんを傷つけることもないように気をつける。この子を一生守る。命に替えても守る。細胞レベルで愛してる。まだ生まれてもないけどこの愛は無敵だと分かる。彼と彼女だった私たちは、この10ヶ月で親になったのだ。

無事に出産予定日を迎え、計画入院し、お昼の12時に人工的な破水処置を受けた。その後は特に痛まずにのんびりぽんやりしていると、陣痛というものを徐々に感じ、これがもう神に祈るくらいの痛みだった。助けて助けて痛い痛いと手負いの獣のような妻の腰を9時間も押してくれ、陣痛の合間にトイレへ連れて行ってくれたり飲み物を飲ませて励ましてくれた夫のことを、私は一生大切にする。

陣痛の合間に
「天罰かと思うくらい痛い」
と母にメールを打った。すると一瞬で返信があった。
「天罰ではなく、天使が産まれてくるんですよ」
その時私が何を思ったか思い出せないが、母がくれた言葉は真実だった。

痛くて痛くて意識が飛びそうな苦しみが終結した。21時27分。世界が変わった瞬間だった。お腹の中で生きられないかもしれないと言われた子が、目の前にいる。私が産んだ!私が。いま。

ひとしきり赤ちゃんを抱いて、頬を撫で、可愛いね、可愛いねと夫と笑って、赤ちゃんは観察や処置のために看護師さんに一時託した。
私はその時医師に断りを入れ、母に電話をかけた。
「産んでくれてありがとう。私のこと、産んでくれてありがとう」
私は分娩台の上で泣きながら電話し、母も電話の向こうで泣いていた。

人はみな、望まれて産まれくる。親が子を愛していないわけがない。誰もが、必ず、誰かの愛しい人。
お母さんになることも、ならないことも、選べるこの時代で、私はお母さんになって良かった。あなたに会えて良かった。あなたに会うために産まれてきたんだよ。

 

三重県 西田里奈さん
題名:みんな望まれて生まれてきた
子どもへ伝えたい言葉:「ママは、ゆきちゃんと会うために生まれてきたんだよ。」