こまちゃんさん 061 [私の出産] | 第2回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第2回ぐるっとママ懸賞作文

こまちゃんさん 061 [私の出産]

夢でもいい
愛してない瞬間なんて1秒もないよ。大好き!
 

 
私の親しい友人がこう言った。
「子どもをもつということは不可逆で、もし子どもにハンディキャップがあった時、一生を捧げられるのか。仕事をしないと生活できないけど、その子に24時間ついていないといけないとしたら?」
頑張れるのだろうか。頑張らないと子の生命が存続しない場合、頑張れるかどうかという段階ではないだろうが、人の一生に責任を持つ覚悟があるのか、と彼女は自身に問いかけていた。
 月並みな話だが、私の両親は夫婦仲がすこぶる悪く、自分は一生結婚しまいと思っていた。しかし、子どもは欲しかった。家族が欲しかった。慈しみ、愛し、幸福にしてあげたい。でも重い病気をもって産まれてきたら?その子が私を好きでないと言ったら?もっとお金持ちの子に産まれたかったと言ったら?私のところに産まれてきたくなかったとしたら?どんどん苦しくなったが、考えることを止められなかった。
 そんな私は運良く誠実な男性に出会い、結婚した。「僕、離乳食作るの頑張るんだ」と幸せそうに笑う彼を、神様だと思った。「残業があっても一旦帰って、赤ちゃんをお風呂に入れてから職場に戻るよ」と言う彼が眩しかった。
 地獄のような陣痛を経験し、赤ちゃんを産んだ日の夜のことは、言うまでもなく強く私の心に残っているが、その次に忘れられない夜がある。確か産後3日目から待望の母子同室がスタートし、その晩、私と赤ちゃんは二人きりになった。夜、赤ちゃんが泣いたので、私は手順をおさらいした。まず、オムツを替えて体重を量り、授乳後ミルクを足して、もう一度体重を量る。最初の体重測定時、赤ちゃんは「お腹空いてるんだ!ミルク飲ませろ!」と言っているのか、実際には「へにゃーへにゃー」と、か細く泣いた。
「可愛いねー。大丈夫よー。すぐだからね。体重を量りに行くよ。ママいるよ。大丈夫よ」
何度も赤ちゃんに声をかけ、自作の歌を歌ってあやしながら、病室の外に出る。コットを押しながら廊下をトコトコと進む。廊下の窓から差し込む月明かりが綺麗で、夜はどこまでも静かだった。私の間の抜けた歌と、赤ちゃんの泣き声だけが聞こえる。まるで世の中にこの子と二人だけみたい。
 そういえば、お義母さんは、夫をこの産院で出産されたと聞く。30年前、お義母さんもこの廊下でコットを押したのだろうか。私の母も、赤ちゃんだった私をあやすために自作の歌を歌ったのだろうか。夫は30年前の、生まれて数日の夜のことを知らない。私も当然、知らない。この赤ちゃんも、私が押すコットに揺られながら、私にあやされていたことを30年後覚えているはずがない。私だけが知っている夜。この子への愛しさで胸がいっぱいになり、苦しいくらいだった。すべての母に、それぞれの夜があるのだろう。かけがえのない夜が。
 あの日産んだ子は今月で3歳になる。いまだに自分に子どもがいるなんて信じられない。私と夫があなたに会いたくて、会いたくて仕方なくて、この世に来てもらったのに、「だいすきだよ」と言ってくれるなんて。「これママ」とピンクの色鉛筆で描いてくれるのも、辛くて泣いている時にアンパンマン煎餅を4枚もくれるのも、全部夢みたい。夢でもいい。これが夢でも、産まれてきて良かったと思える。もったいなくて、お釣りが来るよ。 


 
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