西田里奈さん 007 [私の出産] | 第2回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第2回ぐるっとママ懸賞作文

西田里奈さん 007 [私の出産]

子どもを望む、すべての人の願いが叶いますように
パパとママは真桜ちゃんを一生愛しています!!

 

   娘を妊娠した時、私はドラマ「コウノドリ」を観ようと夫を誘った。夫は元から誠実な人だが「あなたの子どもを命懸けで産みますよ。出産はどえらい大仕事なのですよ」と知らしめようという企みだった。実にずる賢い。

 「コウノドリ」は厳しい産科医療の現実を描いた作品で、どの人物も赤ちゃんとその家族に真摯に向き合っている。産科は幸せな診療科のように思えるが、それは赤ちゃんが無事に産まれることが前提である。死産や重度障害、妊婦の交通事故など、悲しくて観ていられない話もあるが、主人公の鴻鳥サクラ先生はすべての命に寄り添い、全力を尽くし母子を救う。夫と夢中になって観た。  

   娘の妊娠経過は良好で、あらゆるマイナートラブルも軽度で済んだ。幸福だった。彼女の無事を願えることが。いつか「ママ」と呼んでもらえる日が来ることが。生きねば。彼女の人生を応援し、共に悩み、伴走しよう。愛しているといつでも伝えよう。「しつこーい!」と言われるくらいに。塩辛いものラブな私が減塩調味料を買うようになり、甘いものに目がない夫が「長生きしたいから」と(ほんの少しだけ)お菓子を控えるようになった。気休めでもいい。健康にいいと言われていることをすべてやってみよう。この子と長生きしたい。  

   時は来た。ついに陣痛が到来し、病院に向かった。どうか光の速さで終わって…と念じたものの、陣痛はしっかり痛かったし長かった。しかし、ついに娘と対面。可愛いね…。立ち会ってくれた夫に心から感謝し、娘を愛でると、私の体力はもう限界に達した。
「抱っこ疲れたでしょ。赤ちゃん、そろそろ看護師さんにお願いしたら…」そう言いながら私は眠っていった。目が覚めると、視界に娘を抱いた夫が映った。「看護師さんに抱いてもらったら…」と声をかけ、再び私は眠った。また目が覚めた時、夫の腕の中には娘がいた。「赤ちゃん…」と私は言いかけ、この会話がすでに6回目くらいだと気づいた。
意識が朦朧としていてずっと同じことを言っていたようだ。「赤ちゃん、看護師さんに預けないの?」と聞くと、夫は「うん」と答えた。「愛しいから?」と聞くと、また「うん」と答えた。夫は静かに娘を見つめ、その眼差しは澄んでいた。彼を選び、彼に選んでもらえてよかった。  

   私は「コウノドリ」で中学生が妊娠する話を思い出した。妊婦検診で彼女はエコーを見て「CGみたい」と無邪気に笑う、ほんの子どもだった。なんだか出産が他人事のようだった。経済力がないために赤ちゃんは特別養子縁組で引き取ってもらうと決めていた。しかし、何時間にもわたる陣痛に耐えついに赤ちゃんを出産し、仲介人が赤ちゃんを迎えに来ると、力なく首を横に振って涙した。「連れて行かないで」と言えず、ただ泣いた。可愛くて、手放したくない。赤ちゃんは最後には彼女の腕の中から連れて行かれる。
   私はこの場面を思い出し、分娩台の上で涙が止まらなくなった。産んだ子を手放すなんて、身を引き裂かれるより辛い。私は夫に言った。「この子が大きくなったら、どんなに私たちがこの子を愛しているか伝えようね。経済力のないうちに、子どもをもうけてはいけないって教えようね。それでも、もし若くして妊娠した場合は、必ず助けようね」ここまで言うと、夫は「当たり前でしょ」と誓ってくれた。どうか彼女に、娘に、幸多かれ。
 
   しっくりくる名前が思いつかず、娘の名づけには難儀した。どうしようと悩んでいたところ、母が「日本で一番美しい花は桜ね」と何気なく言った。生きる力に満ちた花。春を待つ季節に生まれた子が、桜の名前を持つ。夫から一文字もらい「真桜」はどうか。そういえば鴻鳥先生の下の名前も「サクラ」だ。  
   真桜ちゃん、大好きだよ。大人になったら一緒に「コウノドリ」を見ようね。命の喜びを感じられるよ。何より、パパとママがどれだけ真桜ちゃんを愛しているか、きっと伝わるよ。


 
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